仙台地方裁判所 昭和60年(ワ)894号 判決 1987年12月21日
原告
一原薫
ほか一名
被告
株式会社河北新報普及センター
主文
1 被告は原告ら各自に対し、それぞれ金七〇〇万八九三八円及びこれに対する昭和五九年一一月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担、その一を原告らの負担とする。
4 この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
5 被告が原告ら各自に対しそれぞれ金三五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告ら各自に対し、それぞれ一四二二万七九八五円及びこれに対する昭和五九年一一月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 仮執行免脱宣言。
第二主張
一 原告の請求原因
1 原告一原薫は、訴外亡一原敦(以下、「亡敦」という)の父であり、原告一原和子は亡敦の母である。
2 訴外鎌田政義は昭和五九年一一月一日午前六時二〇分ころ名取市手倉田字堰根三五六番地先路上(以下、「本件現場」という)において普通貨物自動車(宮四五す四四九五号)を運転した際、同所を自転車に乗り通行中の亡敦に右普通貨物自動車を衝突させ、亡敦はそのため頭蓋底骨折等の傷害を受けて同日同時刻ころ死亡した。
3 被告の賠償責任
(一) 被告は新聞・河北新報の普及と販売を業として営む会社であるが、前記本件普通貨物自動車を所有し、訴外鎌田を雇用していたところ、同人は本件事故当時、本件普通貨物自動車を運転して右業務に従事していたから、被告は本件事故当時本件普通貨物自動車を運行の用に供していた者で、本件亡敦の死亡事故は本件普通貨物自動車の運行により生じたのであるから、被告は自動車損害賠償保障法三条により後記原告らの損害を賠償すべき義務がある。
(二) また、訴外鎌田は本件事故に際し、本件現場は民家の密集した住宅地域内に存する道路であり、その幅員が三・二メートルと狭く、更に同所にはその右側(訴外鎌田の進行方向に向い。)に民家に通ずる私道があるのに、本件現場の手前右側端には生垣が存しているため本件現場の手前の地点から右私道に対する見とおしは困難な状況にあり、そのうえ、訴外鎌田は右勤務上、恰もやはり被告の従業員である亡敦が新聞配達のため前記日時ころ右本件現場方面を自転車で通行することを予測することができたのであるから、右私道の通行車両に対して警音器を吹鳴して警告をし、減速徐行し右私道から本件現場に進入しようとする車両の交通の安全を確認して運転進行すべき注意義務があつたのに、たまたま前方約五〇メートルの地点に対向車があるのに注意を奪われたためこれを怠り、本件普通貨物自動車を時速約三〇キロメートルで運行進行したため、自転車が右私道から本件現場に進出してきた亡敦に対し本件普通貨物自動車を衝突させたものである。
したがつて、被告は民法七一五条により後記原告らの損害を賠償すべき義務がある。
4 損害
(一) 亡敦の逸失利益
(1) 亡敦は死亡当時一三歳五か月の健康な男子であり、将来は少なくとも高校教育を受け、機械関連の産業に従事することが充分予想された。
(2) 昭和五八年六月現在の高校卒業経歴の労働者の十八歳から五五歳までの平均給与額は年間二八二万五〇〇〇円である。
(3) 就労可能期間を満一八歳から六七歳までその間控除すべき生活費を五割とし、ホフマン方式による中間利息を控除して算出した逸失利益は三〇二八万六八二五円である。
(二) 慰謝料
(1) 亡敦の頭、顔面等の損壊は甚だしく、また、本件事故は新聞販売業を営む会社に雇われ、新聞配達の業務に従事している当一三歳五か月の亡敦が自己の勤務する会社の所有の自動車による衝突によつて死亡させられたものであり、この事故の悲惨さを考えると、亡敦の慰謝料は一〇〇〇万円が相当である。
(2) また、原告らは、亡敦の右死亡により多大の精神的苦痛を受けたから、その慰謝料は合計五〇〇万円が相当である。
(三) 葬儀費用
原告らは亡敦の葬儀費用として合計一一三万三六二五円を支出した。
(四) 診療費用
原告らは亡敦の診療費用として合計三万五五二〇円を支出した。
(五) 原告らは右(一)及び(二)の亡敦の賠償債権を法定相続分各二分の一の割合で相続取得した。
(六) 損害の填補
原告らは右損害の填補として自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万円の支払を受けた。
(七) 弁護士費用
原告らは本件訴訟費用の提起及び進行を弁護士瀬上卓男に委任し、その費用として合計二〇〇万円を支出した。
よつて、原告らは、被告に対し、主位的には自動車損害賠償保障法第三条により、予備的には民法七一五条一項に基づき、右4の(一)ないし(五)の損害合計額から(六)の填補額を控除し、その残額に(七)の金額を加えた一四二二万七九八五円及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五九年一一月二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
1 請求原因1及び2の事実は認める。
2 請求原因3の(一)の事実中、被告が右普通貨物自動車を運行の用に供していたことは否認し、その余の事実は認める。同(二)の事実中本件現場は幅員が約三・二メートルで、民家の密集した住宅地域内にあり、同所から分れて民家に通ずる私道上の車両等の通行を見とおすことは、本件現場に添つて生垣が存するため困難であることは認めるが、その余の事実は否認する。
3 同4の事実中、(六)の事実は認め、その余は争う。
三 被告の主張
亡敦は前記私道において自転車に乗り本件現場に進出しようとしたのであるが、その際うつ向きながら、右自転車を運転したため、本件現場の車両に全く気付かず、また、当時亡敦は寒さを防ぐため耳あてを着用しており、そのため、本件現場上の車両の走行音が遮ぎられていた。
したがつて、本件事故の発生については、亡敦にも本件現場の交通安全を確認すべき注意義務を怠つた過失があるから、これを斟酌し賠償額はその七割を減ずるのが相当である。
四 被告の右主張に対する原告らの認否
被告の右主張事実は否認する。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。
二 被告は新聞・河北新報の普及と販売を業として営む会社であり、本件普通貨物自動車を所有し、訴外鎌田を雇用していたことは当事者間に争いがない。
成立に争いのない甲第六号証の六、八、証人鎌田政義の証言によれば、訴外鎌田は平素は被告の店舗において、配達新聞の仕分け、ちらしの折込み、不着の新聞の配達等の業務に従事していた者であるが、本件事故当時午前六時二〇分ころ、不着の新聞がある旨の連絡を受けたのでその配達のため、本件普通貨物自動車を運転していた際、本件事故が生じたことが認められる。
そうすれば、被告は本件事故当時本件普通貨物自動車を運行していた者で本件亡敦の死亡事故はその運行により生じたものということができるから、被告は自動車損害賠償保障法三条により、本件亡敦の死亡により生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。
三1 亡敦の逸失利益について
成立に争いのない甲第三号証、証人一原貴の証言、原告一原薫本人尋問(第一回)の結果、弁論の全趣旨によれば、亡敦は、死亡当時一三歳五か月の健康な男子であつたこと、亡敦は、本件事故がなければ将来少なくとも高校以上の学校教育を受けて就職する意思と能力を有していたことが認められ、厚生省昭和五九年簡易生命表によれば、一三歳の男子の平均余命は六二・三二年であることが明らかであるから、亡敦は本件事故により死亡しなければ、七五歳までは生存しえ、一八歳から六七歳までの間は稼働しえたものと推認される。
そして、賃金センサス(昭和五九年)によれば、産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者(一七歳から六五歳)の平均年間給与額は二八二万五〇〇〇円を下ることはないから、亡敦は本件事故により死亡することがなければ、一八歳から六七歳までの間平均年間二八二万五〇〇〇円を下らない給与を得ることができたものと推認することができ、(右賃金センサスによれば、産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の一八歳から一九歳のきまつて支給する現金給与額は一三万八七〇〇円、年間賞与その他の特別給与額は一二万〇三〇〇円であり、一七歳から六五歳までの平均年間給与額は四〇七万六八〇〇円である)これを基礎として、右稼働期間を通じて控除すべき生活費を五割とし、中間利息の控除について新ホフマン式計算法を用いて、本件死亡時における亡敦の逸失利益の現価を算定すれば、次のとおり三〇二八万六八二五円となる。
2,825,000円×(1-0.5)×21.442=30,286,825円
2 慰謝料について
(一) 亡敦について
成立に争いのない甲第六号証の四、五、弁論の全趣旨によれば、亡敦は本件事故により頭、顔面等甚だしく損壊されたことが認められ、本件事故の程度、内容等諸般の事情に鑑みると、本件事故による亡敦の慰謝料は五〇〇万円が相当である。
(二) 原告らについて
原告一原薫(第一回)及び同一原和子各本人尋問の結果によれば、原告らは亡敦の死亡により多大の精神的苦痛を受けたことが認められ、本件事故の程度、内容等諸般の事情に鑑みると、本件事故による原告らの慰謝料は各二五〇万円が相当である。
3 葬儀費用について
成立に争いのない甲第一一号証の三、五、原告一原薫本人尋問(第一、第二回)の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一、二、四、六ないし三三によれば、原告らは亡敦の葬儀を行ない少なくとも一一三万三六二五円を支出したことが認められるが、右葬儀に通常要すべき費用としては七〇万円が相当と認められるから原告らは各自三五万円ずつの支出を余儀なくされたということができる。
4 診療費用について
原告一原薫本人尋問(第一回)の結果、弁論の全趣旨によれば、原告らは亡敦の遺体の処置のための費用としての三万五五二〇円を要したことが認められるので、原告らは各自右一万七七六〇円の支出を余儀なくされたということができる。
原告らは亡敦の父、母であることは前示のとおりであるから、原告らは亡敦の右1の賠償債権三〇二八万六八二五円、2の(一)の賠償債権五〇〇万円以上合計三五二八万六八二五円について各法定相続分二分の一に応じて相続取得したことが明らかである。
四 過失相殺について
前掲甲第六号証の六、八、成立に争いのない甲第六号証の三、第七号証、昭和六〇年九月六日本件現場を撮影した写真であることに争いのない乙第二号証の一ないし一五、証人一原貴、同鎌田政義の各証言を総合すれば、本件現場は、非市街地の住宅地域内に存し、前記東西に通ずる道路上の地点であり、右道路は幅員が約三・二メートルと狭く、更に、同道路には、その右側(訴外鎌田の進行方向に向い。)に民家に通ずる私道があるが、本件現場の手前右側端には、約六・七メートル以上にわたり高さ約一・九メートルの生垣が存しているため、本件現場の手前一〇・八メートル地点にさしかかるまでは、前記道路から右私道に対する見とおしがきかない状況にあること、訴外鎌田は本件事故当時、亡敦が本件現場方面で被告の新聞配達に従事していることを知つていたが、右私道に対する見とおしがきかない本件現場手前約一〇・八メートルの前記道路を前記普通貨物自動車(車幅約一・五三メートル)を運転するに際し、警音器を吹鳴することなく、時速約三〇キロメートルで進行したこと、他方、亡敦は、本件事故当時、前記私道において、自転車に乗り、本件現場に進入しようとしたのであるが、同所には前記生垣が存していたため、訴外鎌田の通行する前記道路に対する見とおしがきかない状況にあつたから、亡敦としても、本件現場に進入するに際しては、その手前で一時停止して安全を確認するなどの注意義務があるのに、これを怠り、右一時停止をしないで進入したことが認められる。
右事実によれば、亡敦も本件事故の発生について、過失があつたものであるから右賠償額は、その二割を減ずるのが相当である。
よつて原告らの右損害のうち、被告において賠償すべき金額は、亡敦の逸失利益三〇二八万六八二五円、慰謝料合計一〇〇〇万円、葬儀費用七〇万円、診療費用三万五五二〇円をそれぞれ加算した額から二割を減じた三二八一万七八七六円が相当であり、原告らは各自右一六四〇万八九三八円の賠償債権を取得したということができる。
五 そして、原告らが自動車損害賠償責任保険から二〇〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、原告ら各自の右残額はそれぞれ六四〇万八九三八円となる。
六 弁護士費用について
原告らが本件代理人に本訴の追行を委任し、その着手金を支払い、かつ報酬の支払約束をしたことは、原告一原薫本人尋問(第一回)の結果により認められるところ、本件事案、審理経過、本訴認容額等に鑑み、本件事故と相当因果関係を有するものとして被告に請求しうべき弁護士費用の額は六〇万円とするのが相当である。
七 結論
以上の次第であるから、原告の本訴請求は各自七〇〇万八九三八円及びこれに対する本件事故発生の翌日である昭和五九年一一月二日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 磯部喬)